オトグス専科では 『半径2メートルの幸せ』 のために、是非とも身近に置いておきたいアイテムの数々を、オトグスの内外にかかわりなく、毎回ひとつのテーマに沿った形でご紹介していきます。
■ 第一回目 ■
現代美術と依代

現代美術の流れを辿れば、それは表現の多様化の歴史で、19世紀以降のヨーロッパを舞台に、進歩史観と歩を一にして古い価値観を次々と否定するなかで、印象主義、象徴主義、その他もろもろの表現が生み出され、またその過程で表現の自律性を獲得し、「より新しく、より斬新に」と留まることを知らないフロンティア精神が20世紀に入ってついに抽象芸術を生み出し、さらにアメリカに渡り、ポップ・アートにミニマル・アートやコンセプチュアル・アートとその表現の多様化は加速度を増し、単純に「ジッとしとけよ」と思うアジア人をよそに現在に至るまでその多様化の波は留まることをしりません。

現在の美術市場を駆動させている原動力も、この「より新しく、より斬新に」と新たな表現を生み出そうとするアーティストの欲望と、その発掘者たらんとするディーラーの、そのまま精製して行けば株の売買に行き着くような欲望の延長線上にあります。で、ここでオトグスの立ち位置を明確にしますと、

 

オトグスはフロンティアに興味がありません。

オトグスは『アート・パンチドランカー』ではありません。

オトグスは『半径2メートルの幸せ』を目指します。

 

オトグスは表現の拠所になった、その足場に目を向けます。そうすることによって進歩史観と歩を一にしながらも、アーティストたちが、その場に何を持ち込もうとしたかがおぼろげながらも見えてくると思うからです。オトグスの興味はその何かに集約されます。ですからジェフ・クーンズチョチョリーナの結婚について語ることはありません。アート業界そのもには興味がないからです。

一見何の変哲も無い岩屋に向かって「何事のおはしますかは知らねども かたじけなさに涙こぼるる」と手を合わせるお婆さんの姿を思い浮かべてください。オトグスが興味をもつのは、おもわず手を合わせてしまった、そのお婆さんが<感取>した何かです。「依代」という観念で捕捉されたが故に過剰な装飾の下で消え行くような何かです。そこには、幾人かの現代美術のアーティストたちが様々な表現形態に依って持ち込もうとした何かと同質のものが存在するとオトグスは考えます。

近代そのものの中から生まれ、その近代を乗り越えることを宿命付けられた欲望が、アジアの民からすれば「そんなに先急ぐことなかろうに」と思われるような性急な自動機械状の欲望が、単にマッチポンプ的にヒール役の西洋近代的価値観に戦いを挑んでいるかに見えたとしても、例えばシュルレアリスト依ってたった「無意識」それ自体が、その運動に多大な影響を与えたフロイトの精神分析が当初依ってたっていた狂気そのものが、すでに西洋近代的価値観によってもみくちゃにされたものであったとしても、幾人かのシュルレアリストたちはその足場に、元来つつましやかに存在していた「依代」一歩手前の世界観と同列に存在しうる何かを見ていたのだと思います。

 

オトグスの興味もすべてそこに集約されます。幸せの根っ子もそこに存在すると考えるからです。オトグスがご紹介しようとするアイテムの数々も、その何かを<想起>させうるものを前提としています。それらのアイテムをひとりひとりお部屋の中へ持ち込み、めでたり、紐解いたり、触ったり、作ったり、聴いたり、奏でたりすることにより<想起>される、その何かを通して 『半径2メートルの幸せ』 を目指します。

 

思わず、第一回目は意見表明に終始しましたが、第二回目は 『ポロックとインディアンとアボリジニー』 と題して、よりアイテムとの関連を密にお届けしたいと思います。

アウラ・ヒステリカ ― パリ精神病院の写真図像集

著者: J.ディディ=ユベルマン, 谷川多佳子ほか訳

19世紀末のパリ、サルペトリエール病院でのヒステリー患者を中心とした「狂気」の図像学。

 

第一回目 現代美術と依代

第二回目 ポロックとインディアンとアボリジニー (序章)

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ピックアップ Vol.01 - 鳥の神秘

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オトグスの美術史観と合い通じるものを感じます。

路傍の丸石から壮大な物語が紡ぎ出されます。

この人の作品を見ていますと、いつも沖縄の御嶽にひっそりと手向けられた小石を思い浮べてしまいます。

記号の殺戮
フランソワーズ ルヴァイアン

「近代合理主義に囚われた意識の開放」を目指し行われたシュルレアリストの技法のひとつ <オートマティスムによるドローイング> そのものが、西欧そのものの懐に抱かれた「狂気」という観念を念頭に置いての実践であったことを、いわゆる「狂人」のデッサン共々、豊富な図版(オールモノクロ)をもとに語られています。